江戸前寿司の食べ方

予算がない日は、迷わず安いネタを選んで注文しよう。

料金順に表示されている店であればその順序で注文する方法もある。
決して安いネタがまずいわけじゃない。
逆にいえば高いネタがうまいわけでもない。
一種の寿司ネタには固有の存在価値があるから、それを享受すればよいのだ。

そもそも、玉(ギョク)を頂けば寿司屋の腕前が解るとまでいわれている。
ちなみに玉、つまり卵はネタの中でも一番安価ではないか。
次に味わって欲しいのはなんといっても小肌である。
これも寿司屋の腕前を測るバロメーターだ。
これも然り1カン100円ほどである。
玉に始まり、次はひかり物にいく。
このひかり物で胃が動き始め、食欲が掻き立てられて、これから迎えるであろうネタに思いをはせるのである。
そして次にいきたいのが季節モノ。
日本には四季があり、その時期のうまいものを頂かない手は無い。
寿司ネタを見ながら、また寿司を吟味しながら季節感を感じられるようになったらしめたものだ。
続いて各々の好きなネタを頂いて、マグロそして、江戸前の醍醐味である穴子にたどり着き、必要に応じて巻き物、好みに応じて焼き物やお椀を挟むのもよい。
最後はやはり玉で締める。
之将に至福の時也。

せっかく江戸前寿司を頂くのであれば、江戸っ子風に粋に頂きたいものだ。
やっぱり江戸っ子は箸でなく手掴みでいきたい。
僕の個人的な意見でいえば、寿司には酒ではなく、やっぱりお茶が粋だ。
寿司を頂き、ほのかに渋いお茶を口に含む。
そしてガリを少量かじり、またお茶を含む。
これで前のネタの余韻を楽しみつつも、口に残る臭みを完全に除去した事になる。
これをしないと、付き合い始めた女性の背に前の男の影を見てしまうような悲しい気分になってしまうではないか。
毎回リセットするのが大切である。
ネタの味を存分に楽しみ、余韻まで堪能した後、しっかりと口を回復させ、臭いを消して前のネタを感じさせない状態で、次の新しいネタを敬意を持って迎えるのである。
ついでにいっておくと、注文する時に
「すみません」
と声をかけるのは粋ではない。
自信を持って。
「トロ下さい!」
とか、
「タコちょうだい!」
とかいったほうがよっぽど粋である。
寿司職人は粋にやっているんだから、客も粋じゃないと釣り合いがつかないではないか。
ただ寿司を食べるのでなく、食べている自分に酔えたら、寿司が2倍にも3倍にも楽しめるはずだ。

専門用語を覚えるとこれもいとおかし。
例えば、お茶は「あがり」、醤油は「むらさき」、卵は「ぎょく」、あわびは「片思い」挙げはじめればきりがないけど。
ここまでいくと、ちょっと下駄を突っかけて着流しで行きたいものだ。
ま、ここから先は趣味の世界だが。
着物の袖を醤油につけぬよう、左手でつまんでお決まりの仕草。
当然扇子は忘れぬよう。