〜コンコルド体験記〜
駐機中のコンコルド パリのシャルル・ドゴール空港にて
 中学生の時、パリからニューヨークへ行く時にコンコルドに乗った。
 これは僕が小学生の時からの夢。
 それまでは、空港でコンコルドを目にするたびにときめいていた。
「音速を超える飛行機に乗ってみたい!」
 今コンコルドは引退の危機に瀕しているが、当時ですら世界で10機程度しか飛んでいなかった。
 しかも、パリとロンドンからそろぞれニューヨークに飛んでいるだけ。
 以前、即位の礼でフランスのミッテラン大統領が来日した際に羽田にコンコルドがやってきたことがある。

 パリからニューヨークまで僅か3時間ほどで駆け抜けるコンコルドの旅はあっという間だった。
 機内は想像どおり狭い。
 中央に通路があるけども、人がすれ違えない。
 それどころか、通路は肩幅もないから、カニ歩きをしないと進めない。
 だから、すれ違う時は座席に食い込むように避けないといけない。
 ファーストクラスよりも高い料金をとりながら、エコノミークラスよりも狭い。
 窓はかろうじてついているけども、葉書くらいの大きさしかない。
 やはり、何もかも普通の飛行機とは違うのだ。
 超音速の匂いがする。

 コンコルドのあの形は、超音速で飛ぶのに丁度いいスタイルだから、離着陸となるとどうしてもぎこちないような気がする。
 プロフェッショナルの極みとでもいおうか。
 フェラーリでコンビニに買い物に行ってしまうような、紋付袴で便所掃除をしてしまうような、そんな感じだ。
 いざ飛び立つと、前方の速度計に目が釘付けになる。
 新幹線のカフェテリアにあるような、あの速度計だ。
 しかし単位が新幹線とは違う。
 マッハである。
 離陸した直後はマッハ0.3程で、その後ぐんぐん上がってゆく。
 普通の飛行機は音速弱だから、つまりマッハ1弱ということになる。
 僕の予想だと、音速であるマッハ1を越えたとたんに無音状態になるはずだった。
 だって音速を超えちゃうんだから、エンジンの轟音は乗客の耳にも入らなくなるはずだ。
 しかし予想は外れた。
 正面の速度計がマッハ1を示してもエンジン音は消えない。
 いくら音速を超えても、エンジン音は振動で伝わってくるのであった。
 確かに音は振動だから、空気中を伝わらなくても、機体を通じてやってくる。
 そしてマッハ2を越える。
 マッハ2で飛べるのは戦闘機とコンコルドだけだ。
 高度も通常の2倍で2万メートル。
 確かに窓からの景色が違う。
 もうほとんど宇宙。
 上のほうの空(といおうか宇宙)の色が青じゃない。
 コンを通り越えて黒に近い。
 下を見れば、雲の見え方が普通と違う。
 どこかで見覚えがあると思えば、あの気象衛星ひまわりの写真だ。
 これぞまさしく天気予報のライヴ!
 コンコルドの上から実況中継で天気予報やったらさぞうけるだろう。
 機内食をいただいて、一息ついたらもう着陸準備。
 こんな短時間の内に大西洋を渡ってしまっていいのであろうか。
 ここに乗っている客は、そんなに急いでどこに行くのだろう。
 ま、ニューヨークではあるのだけれど、人間はヘンな動物である。
 生死がかかっているライオンですら乗り物の開発には着手していない。
 いまだに生足で走っている。


竹田恒泰
コンコルドの機内 驚くほど狭い空間
コンコルドのコックピット