〜想像を絶する飛行〜
ニュージーランドのクイーンズタウンで小型機のアクロバット飛行に参加するプログラムがあった。
 パンフレットには「究極の飛行」と書かれていて、二人乗りの小さな飛行機にパイロットとゲストが搭乗し、20分間の本格的アクロバット飛行が体験できるという。
 6Gかかるというが、F1でも5Gしかかからないのにいったいどんな感覚なのか非常に興味があった。
 6Gということは僕の体重が50kgだから単純に300kgの圧力がかかる計算になる。
 怖いもの好きで飛行機好きの僕は早速参加することにした。
 クイーンズタウンには小さいながらもしっかりとした空港がある。
 ガラス張りの待合室のすぐ脇に小柄で素敵な飛行機があった。
 機体はブルーで、プロペラの先がイエロー。
 本当にかわいらしい。
 ところが機体には「Red Bull」と書かれている。
 このアンバランスさに違和感をもっていた。というのは観光地で一般に募集をかけている企画なのでどうせ大したことはないだろうと余裕面で順番を待っていた。
 ところが最初に乗り込んだお客がヘロヘロになって還って来たのだ。
 次は自分の番である。期待と不安を抱きながら飛行機に乗り込む。
 前の席がゲスト席で、後ろの席がパイロットの席になっている。
 身動きできないほど狭いコックピットに座ると四点式ベルトで体を硬く固定される。エンジンがかかり離陸。
 機体はどんどの高度を上げてゆく。
 クリーンスタウンは険しい山に囲まれて美しい湖がひときわ印象的ところで、最高の景色にうっとりと見とれているのもつかの間、「想像を絶する飛行」が始まった。
 一瞬の内に逆さまになり、湖が上に見える。
 その次はぐるぐる回転して空が上にきたり下にきたり、もうどっちが上だかわからないしどうでもよくなってくる。
 そして宙返り。
 この宙返りが半端じゃない。
 上に行くときはまだしも、逆さまになってさらに降下をはじめ、水平に移るあたりで相当のGがかかる。
 これが6Gに相当し、感覚的にはお相撲さんが2人自分の上に覆い被さってくるようで、もちろん息はできないし、自然とうめき声が出てしまう。
 戦時中のパイロットは偉かった。
 このGを受けながら照準を定めて機関銃を打っていたのだ。
 この感覚は世界中のジェットコースターをはじめとする全ての絶叫マシーンを凌駕する。
 ジェットコースターなどではせいぜい100m前後の落下で速度もさほど早くない。
 ところがアクロバット飛行では数百メートルを一瞬のうちに落下し、しかも相当の速度である。
 この遠心力で6Gというすさまじい圧力がかかるのである。
 はじめの宙返りの時、意識が薄らいでいくのを感じた。
 あと何秒か続いていたら完全に意識を失っていただろう。
 貧血に近い状態で、目を開けているけれども見えていない。
 思考能力も低下している。
 よく戦闘機のパイロットが慣れないうちに飛行中に意識を失ってしまうケースがあるというが、妙に納得。
 その後も立て続けに回転を続け、文字通り「木の葉の舞」であった。
 飛行時間があと5分長かったら確実に酔っていたに違いない。
 こともあろうに飛行直前に中華料理をたんまり平らげていて、餃子がこみ上げてくるのを感じた。
 とにかく激しすぎる。
 こんな体験プログラムが存在していることに恐怖感を感じる。
 日本ではとても認可される商売ではない。そういう意味ではユニークな体験である。
 パンフレット通り「究極の飛行」であった。



平成13年6月22日 オークランドから大阪に向かうエアニュージーランド機内にて
竹田恒泰