タバコで燻製
雲南省 西双版納 景洪にて
 田舎道をバスで旅していた時のこと。
 小学生位の少年が二人乗り込んできて、おもむろにポケットからタバコを取り出して吸い始めた。
 僕は驚きのあまり見入ってしまったのだが、中国ではよくある光景だ。
 中国ではとにかく大勢の人がタバコを吸う。
 男性は喫煙者が特に多く、吸わない人はかなり少ない。
 それにみんなタバコの根本ギリギリのところまで吸うから、吸殻はフィルターしか残らない。
 今の日本では禁煙スペースが増えてきていて、国民の禁煙に対する考え方は昔と比べて大きく変化しているのだが、中国ではまだまだその段階に達していない。
 禁煙の場所はほとんどなく、あったとしても表示があるだけで、誰も守っていないのが現実である。
 だからバスに乗っても電車に乗っても食堂に入っても必ずタバコの煙が充満している。
 僕みたいにタバコを吸わない人にとっては最悪の環境。
 しかも自分がタバコを吸うときに、周りにいる他人にもタバコを配るという変な習慣があるお陰で、一人が吸い始めるとみんな一斉に吸い始めるから、バスの中だったりすると一瞬にして車内が煙に巻かれることになる。
 煙いと思って窓を開けたら、土ぼこりが殺人的な勢いで吹き込んできてひどい目に遭ったこともある。
 どんなにタバコが嫌いでも中国にいる限り避けようがない。
 逆にタバコを勧められることもかなり多い。
 普通に旅していると、一日に十回近くタバコを勧められる。
 中国では勧められたタバコを断る人はいないから、僕が断って礼をいうと非常に変な顔をされる。
 彼等には僕の感覚は理解できないのであろう。
 中には、
「俺の好意が受け取れないのか」
というような嫌な顔をする人もいるから困ってしまう。
 一方、人に何かを頼む時は、タバコを一本あげれば快く引き受けてくれるものだ。
 タバコを吸わない人でも、中国を旅する時には欠かすことのできないアイテムなのである。
 余りにも頻繁にタバコを勧められるので、禁煙中の人はよほど頑張らない限り誘惑に負けてしまうだろう。
 こんなにタバコ嫌いな僕ですら、
「じゃ一本だけ頂きます」
といって吸ってしまいそうになることがある位だ。
 中国にいると、
「タバコは体に悪い」
ということが何だか別世界の話のように思えてくる。
 ああ恐ろしや中国。
 タバコの害を訴えるポスターや広告などは一枚も見掛けなかった。
 中国の人達はタバコの害について少しも気にしていないように僕の目に映った。
 中国滞在中の何ヶ月の間にすっかり燻製になってしまった。


平成7年6月
竹田恒泰