タイムマシーン

もう直ぐ宇宙旅行ができるようになる。本当に楽しみであるが、始めは地球の近くを遊覧する程度か、もしくは東京からニューヨークのような長距離路線で一旦大気圏を飛び出して飛行するといった具合であるらしい。ところがしばらくすると、本当に他の惑星に行ってみたり、銀河系を飛び出したりすることができるようになるかもしれない。

スペースシャトルのように飛行時間が短ければ必要な食糧、水、燃料は全て積み込むことができるし、宇宙ステーションであれば地球から物資の供給を受けることができる。しかしもし本格的に宇宙を旅行しようとしたら、宇宙はとてつもなく大きく、太陽系をちょっと散歩しようとするだけでも宇宙船の中で何年も生活をしなければならないことになる。ところが宇宙を何年も旅行するということになれば、宇宙船の内部で食糧、水、酸素を生産し、排出物を循環させて資源化するシステムが必要不可欠になってくる。宇宙船だけでなく、人類が月や火星に住むとなれば同様のシステムが必要である。また過酷な宇宙空間で人間が生存できるように頑丈な保護装置を付ける必要がある。

宇宙はあまりに大きい。地球から太陽までは1億5000キロメートルある。これは東京―ニューヨークを7500往復できる距離であり、これを1天文単位と呼んでいる。太陽に行くとすればかなりの時間を要することが想像できるだろう。ただし太陽に到達する遥か以前に焼け焦げることを覚悟する必要がある。太陽から木星は5.2天文単位、冥王星に至っては39.5天文単位と、太陽系だけでも巨大である。今地球を出発して冥王星に向かうとする。飛行機と同じ時速1000キロメートルで飛行したとすると、冥王星まで片道674年かかる計算になる。1秒で地球を7.5回転してしまうという光の速度で旅したとしても5.5時間かかる距離である。

ましてや太陽系を出て他の星に行ってみようとすると大変なことになる。光が一年間かけて進む距離を1光年と呼ぶが、地球に一番近い恒星でも4.3光年、2番目に近い恒星であるシリウスは8.7光年の距離がある。シリウスは全天で一番明るい星なので名前を聞いたことがある人も多いことだろう。しかし飛行機の速度でシリウスまで旅をする場合、940万年かかり、宇宙船の中で約31万世代の営みを要することになる。近い星でもかなり遠いのだ。

このように考えてしまうと太陽系外の星に旅することは不可能なように思えてしまうが、案外あっさりと実現する可能性もある。少し宇宙旅行について考えてみることにしよう。地上で乗り物を作ろうとすると空気抵抗の壁があり、一定以上の速度を出すのは難しい。普通の飛行機でマッハ(音速)1前後、コンコルドでもマッハ2前後である。ところが地球を飛び出すと宇宙には空気が無いため空気抵抗が無い。一旦動き始めると燃料を使わずにその速度を維持することができる。

つまり燃料を燃やしている間は加速し続けるわけで理論的には光の速度に限りなく到達することが可能である。ニュートン力学によれば、宇宙船が一定の燃料を噴射し続け、地球の重力加速度と同じ加速度を得られるとすれば、その宇宙船は約1年後に光の速度に到達する計算になる。ただし、1年分の燃料を積み込まなければいけないという技術上の問題点が残る。

光に近い速度で移動できるようになれば話は別で、宇宙旅行も現実味を帯びてくる。しかも、相対性理論を考慮すればより遠くの星に行くことがイメージできるようになるのだ。例えば先ほど話に出たシリウスに旅することとしよう。地球からの距離は8.7光年である。光速は秒速約30万キロメートル、我々の乗り込む宇宙船は仮に秒速26万キロメートルの速度で飛行することにする。この場合、光であれば8.7年かかるが、宇宙船だと10年かかることになる。

ところが、相対性理論によれば、宇宙船の速度が光の速度に近づくほど、宇宙船の時計が遅れる。つまり、地球の時計と、秒速26万キロメートルで移動する宇宙船の時計を比較した場合、宇宙船の時計の方が針の進みが遅くなり、この場合の周期比は2になるので、地球で2年経過する間、宇宙船では1年しか経過しないことになる。つまり、宇宙船がシリウスに到着するまで、地球の時計は10年を刻み、宇宙船内の時計は5年を刻むことになる。シリウスを往復して10年がかりの旅を終えて地球に戻ったとしよう。その間、地球にいた同期の友人たちは20年の時を刻んでおり、きっとあなたは若々しくもてはやされることになるだろう。

銀河系に一番近い星雲であるアンドロメダ星雲は地球から240万光年の距離があるが、宇宙船の速度を光速に限りなく近づければアンドロメダへの旅行も可能である。例えば宇宙船の速度を、光速の10億分の5の違いまで近づけたとしよう。この場合の周期比が100万になり、時計の遅れ具合は100万分の1になる。宇宙船がアンドロメダを往復するのに要する時間は、地球の時計では480万年、宇宙船の時計では4.8年である。

あなたにとって4.8年しか経過していなくても、その間地球では480万年が経過しているわけであり、この旅の出発は、あなたの家族、知人との永遠の別れになる。これは一種のタイムマシーンということも可能であろう。
あなたがアンドロメダから帰ったとき地球はどのようになっているだろうか。果たして人類が生存しているか、恐らく人類は滅んでいるだろうが、もし人類が生存していたら、我々は21世紀に生きていた人類としてどのように迎えられるだろうか。そのことを思えば、地球は我々の子孫から借り受けたものであると考えてみてはどうだろう。人から物を借りたならば、返すときには元通りきれいにして返すのは当然で、水も空気もきれいなまま返さなければならないはずだ。

竹田恒泰
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