路上の商売-中国編-


湖北省 武漢にて

中国では路上の商売が発達していて、日本ではちょっとお目に掛かれないユニークなものもある。
雲南省の昆明では按摩が有名である。
路上にただ椅子を置いているだけの極めてシンプルなもので、白衣を着た按摩師達が客待ちをしている。
僅かな料金で全身マッサージをしてくれるから、旅行者にも地元の人にも人気。
彼等は按摩の学校を卒業した人たちで、ちゃんと資格を持っているが中にはそうではない人もいるので確認が必要なのだ。
白衣を着た人が道端にズラリ並んでいるのは異様な光景だった。
日本で路上按摩サービスなんぞ聞いたことがないけれども、あったらいいなと思う。
その気がなくてもちょっと空いた時間を利用して、路上で気軽に按摩が受けられるのは嬉しいサービスだ。
中国の路上で時々体重計を見掛ける。
始めの頃は一体何のために路上に体重計があるのかさっぱり分からなかったが、結局は体重を量るサービスなのである。
そこでは体重と同時に身長も測ってくれるシステムになっていて、微々たる手数料を徴収している。
彼等は何でも商売にしてしまうのだ。
体重計を操っているのはたいていが子供達で、貧しい生活を少しでも楽にするための苦肉の策なのだ。
一日中働いてもほとんどお金にならないのが厳しい現実であり、需要はかなり低く、実際に体重計が稼動しているのを見たことがない。
今後大々的なダイエットブームでも訪れれば繁盛するかもしれないが、みんなが家庭に体重計を持つ日がやってくれば、このささやかな商売も姿を消してしまうのだろうが、寂しい気もする。
日本の一般的な家庭には体重計位はあるものだが、中国では近代化された一部の都会を除いて、普通の家にはお手洗いすらないのであるから、体重計があるはずもない。
人民は必要があれば路上に体重を量りに行く。
今の段階で自らの体重を気にしている人民がどれ程いるのだろうか。
四川省の重慶では路上の床屋があった。
ポツンと椅子とハサミが置かれていて、お世辞にも清潔とはいえないような水がバケツに満たされているだけ。
勿論水道、電気の類は来ていないし、鏡等の床屋に当然あるべきものは見当たらない。でも、家業として立派に成立している。
このような床屋でカットしてもらうと三元位(四十円)で済んでしまう。
申し訳ないくらいに安いのだ。
重慶の駅前では猿回しをやっていた。
何匹かの猿を同時に操って芝居を見せてくれる。
彼等は仕事としてやっているわけであって、ちゃんと集金係がお金を集めて回っていた。
僕が写真を撮ったらすかさずやってきて、写真を撮った分多く支払えといってくる。
中国の道端にも日本と同様に靴磨きの商売をやっている人達がいるが、彼等の多くは併せて修理も行っている。
彼等は外国人と見ると巧みな業で儲けようとするからあまり印象が良くない。
特に雲南省大理の修理屋は性質が悪かった。
僕が宿から出てきた時、彼等は僕の靴を見るなり、傷んでいるから修理をしようといって強引に修理を始め、その上持っていたカバンの解れているのを見つけて、これも修理し始めた。
結局終わってみたら法外な金額を請求され、喧嘩状態。
新品を買った方が安くつく。
最近は射撃が流行っている。
といっても本物の銃を使うわけでなく、おもちゃの銃を使う。
膨らませた風船をコルクの銃で狙い撃ちするタイプのものと、光に反応して点数が表示されるタイプのものがあり、ゲ-ムセンターはなく、路上や公園等に数多く設置されていて、いつも人だかりになっている。
日本のゲームセンターに若者が屯しているのと同じことである。
射撃で高得点を得たからといって景品が貰えるわけではないが、皆夢中になっている。
これがなかなか難しく、正確に中心を撃つのは容易なことではない。
一発撃つ度に中国語の音声で点数を知らせてくれるのには泣けてくる。



雲南省 西双版納 景洪にて


西双版納の打洛という町を訪れた時に、路上に賭博屋が並んでいた。
表に「3」裏に「8」と数字の書かれたチップがあって、ディーラーがそのチップを椀の中に投げ入れて蓋をする。
そして「3」か「8」に現金を賭けるという単純なルールであった。
ちょっとの間見ていると、驚くほどの大金が行き来している。
全員中国人だった。
ある時、ディーラーの手さばきが鈍り、明らかにチップは「3」を上にして蓋が閉じられたのを僕は見逃さなかった。
「これは絶対に3だ!」
と一人で興奮して、ポケットにあった百元札を自信たっぷりに「3」の枠に置いた。
僕に引き続いて「3」にたくさんの現金が置かれた。
みんなもあの瞬間を見逃してはいなかったのだと思った。
「これはきっとディーラーのミスだな。」
と心の中で呟いてディーラーの顔を覗き込んだが、彼は苦い顔一つしていない。
そして蓋が開けられた。
「8」
一体何が起こったのかさっぱり分からない。
「3」に山のように積まれた現金は全てディーラーが掻き集めた。
でも確かに蓋が閉じられた時チップは「3」だった。
蓋を開けるまでの間に何かが為されたのではないだろうか。
そうとしか考えられない。
結局僕は騙されたのだった。
あそこに屯していた男どもは皆さくらだったのだ。
きっと僕がポケットの中を漁っている時にチップを裏返したのだろう。
しかも僕がチップを読み取れるようにわざと失敗したふりをしていたようだ。
観光客をこうやって狙い撃ちしているプロであった。
これだけ芝居がうまければもっとまじめな方面でも成功しそうな気がする。
路上の賭博には手を出さないほうがいいです。
十元位にしておけば良かったと思ってももう戻ってはこない。
というように中国の路上では様々な商売が営まれている。
でもこれ程に驚いたことはなかった。
雲南省の下関でのことだが、夕方になって何と、驚く事なかれ、路上のカラオケが登場したのである。
これにはさすがの僕もぶっ魂消た。
その歌声は深夜になっても延々と響きつづける。



しかもスピーカーの許容範囲を超えた音量を出すものだから、音は割れて耳に劈く。
日本の常識では到底理解し得ないが、誰も文句をいわないし、すでに定着してしまっているのだ。
でも中国人は歌が大好きで、いつでもどこでも何か歌を口ずさんでいる程だから、それでもいいのかも。
一体何が飛び出すか検討もつかないのが中国の路上の商売だった。
これからも変な商売が生まれては消えてゆくのだろう。


平成7年6月
竹田恒泰


四川省 重慶駅前にて